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もずはっく日記(2006年3月)

2006年3月5日

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初回投稿日時: 2006年03月05日03時28分08秒
カテゴリ: Firefox
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あくまで個人的な意見です。念のため。

とりあえず、日本ではFirefoxよりもThunderbirdの方が人気があって、欧米とは対照的らしいです。このへん、かけてる労力と人気の食い違いに内心複雑ではありますが。

ただ、このことから私が思うのは、やはり日本という市場は大きくて、Firefoxのシェアがまだまだ上がる余地はあるのだということ。もちろん、様々な要因があってシェアが伸びていないとは思いますが、あえて最大の原因を挙げろと言われると、私は「日本ではブラウザという市場自体が消え去っている」を挙げます。MUAに関しては、OEの以前のボロボロさ加減から、Becky等の対抗馬が一般化していたため、メーラーという市場があるからThunderbirdは多少注目されているのではないかと思います。

私も親戚とかと話していて仕事の話になっても、何をやっているのかいつも説明に苦しみます。何しろブラウザという単語そのものを知らないから話にならない。これが日本の現実なんでしょう。もちろん、弊社の商売を抜きにしてもこの状況は決して良いことではありません(だからこそボランティアで活動していた訳です)。何故こんなことになったのかと言えば、やはりMicrosoftの強引な戦略のせいであることは明白でしょう。(ただ、PCのユーザの裾野を広める戦略としてはこのやり方は利口だったとも思いますが。)

そして最も良くない状況なのがMicrosoftがIEは商売にはならないと考えている(であろう)点です。これは推測ですが、IEが長年バージョンアップできなかった理由は他に思いつきません。同じく独占状態のWindowsやOfficeに関しては、商売になるので、過去の自社製品をライバルとして製品の改善に努める必要がありますが、IEの場合、これが当てはまらないのでバージョンアップをサボればサボるほど「無駄な」出費をせずに済む、という状況なのでしょう。

そして不幸なことに、このときにまともな他の選択肢がなかったのも現在の状況を作り上げるのに一役買ったと思います。

このような状況下で「インターネット」というものに触れたなら、ブラウザを知らないのが当然のことで、長い間進化しない青いeのアイコンで開くウインドウで「ホームページ」を見る、これが多くの人にとっての「インターネット」になってしまったのだと思います。

では、こんな私の考える状況下でどうやれば打破できるのかと言えばメーカー製PCへのバンドル(しかもデフォルトブラウザに設定してもらう)しか私には思いつきません。もちろん、サポート等の面からメーカーが素直に応じてくれるなどとは思ってもいませんが……

ただ、多くの面でIEよりもFirefoxは優れていると私は確信していますが、まだまだ日本人の利用に際しては原始的な問題が残っている、つまりIEよりも劣っている部分があることも事実です。こういった問題の大半はFirefox3で解決される予定なので、開発現場の本音としては今はむしろ急激にシェアが伸びられると困るとも言えます。まだ、日本でシェアが一般の人にまで拡大していないのはそういう意味では幸せなのかもしれません。なぜなら一度失った信用を取り返すのは、私たちの現在のミッションよりもはるかに難しいと思うからです。(スラッシュドットを読んでいると、Fx1.0以前で失った信用、例えばデフォルトフォントがSerifだったりとか、セキュリティリリースが日本語版だけ遅れるとか、Fx1.5で改善された問題を未だに引きずっている人がいることからも明かだと思います。)

以上、マーケティング担当でも何でもない技術屋の意見でしたが、以下、スラッシュドットを読んでて明らかに間違ってるだろうということだけ突っ込み。

Sleipnirがあるからだ、なんていう意見は明らかにおかしいです。フェンリルの牧野氏がシェアについて発言されていますが『インターネット白書2005』によると、国内におけるシェアは、IE6、IE5、Netscapeの次にSleipnirが入っています。全体の3.8%だそうです。とあります。

Fxはそれよりも下だったそうですが、たとえSleipnirのシェアが丸ごとFxに移っても10%なんていかないんですよ。つまり、Sleipnirのシェアなんて関係無いんですよね。それにSleipnirのユーザの大半はPCに関してそれなりの知識を持ち、他のブラウザとのメリット、デメリットを一度は秤にかけた、「自分でブラウザを選択した」ユーザだと思うのです。こういうユーザがFxに乗り換えるには、IEに対して相当なアドバンテージをGeckoが持たない限りはあり得ないでしょう。つまり、私たちが獲得を狙うべきユーザでも無いと思います。

この理屈で考えるなら、拡張を探すのが面倒とかを理由に挙げている人の意見も的外れになります。IEに比べてFirefoxが極端にシンプルなことはありません。むしろ多機能なぐらいです。つまり、そう言ってる人たちは多機能さがウリのSleipnirやOperaのユーザとしか思えません。つまり、これも私たちが獲得を狙うべきユーザでは無いのです。

マニア受けと、シェアは関係ありません。いかにライトユーザを取り込むか、これがどの業界でも共通のシェア獲得の原則です。つまり、ブラウザ市場の場合、パソコンに入っていたIEをそのまま意識せずに使っている大多数のユーザ、ここを狙わなくてはいけないと思います。(この件に関しては、32bitゲーム機のPlayStationとSEGA Saturnのシェア争いが私の記憶に鮮明にあります。結果はみなさんご存じのように、FF7で圧倒的なライトユーザの獲得に成功したPlayStationの圧勝でした。)

ただし、一つだけ気をつけなくてはいけないのは、オープンソースで開発を行っている以上、開発貢献者の機嫌を損ねては将来に暗雲が立ちこめてしまうところです。ライトユーザに媚びを売るために非標準への妥協を増やしたりして従来の方針をねじ曲げてしまうと開発者不足がより深刻になって破綻することになります。この点だけは絶対に忘れないように心がけなくてはいけません。

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